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もてなされない旅館

年末から年始年始にかけては蟹三昧だった。
ウチでやった忘年会ではズワイガニを一箱買って、かにすきに。その後も残った蟹でみそ汁やクリームコロッケを作ってさんざん食べた後、実家へ行ったらまた蟹すき。さらに3日には家族で温泉旅館へ宿泊してワタリガニを食べた。もうさすがに当分蟹はご遠慮します、って感じである。

もうひとつ、ワタリガニを食べに行った佐賀の温泉旅館もご遠慮願います。家族揃って旅行に出かけるなどなかなかないだけに、あの旅館には本当にがっかりさせられた。目的のワタリガニが意外に小さかったというのも期待はずれだったのだが、旅館のサービスがあまりにもなっていなくて、料金の割にえらく裏切られた気分で帰ってきた。その旅館があるのはワタリガニや牡蠣が名物の有明海に面した小さな田舎町。でも旅館が意外と大きくて立派だったので(見かけだけ)、通常私達が宿泊するホテルや旅館のスタンダードなサービスを当然予想した。そこでは火曜サスペンス劇場(いわゆる火サス)のロケも行われたらしく、ロビーには有名俳優の写真なども飾られていた。他にも丸太をそのまま蟹の形に彫り込んだ椅子やテーブルが置かれ、そのリアルな造形に思わず笑ってしまったが、田舎っぽいが蟹旅館という主張が全面に押し出されいて、都会から来た私達の心は妙にくすぐられた。

ところが部屋は海側に面して景色はまずまずだったものの、えらくうらぶれた室内だった。古くてあまり清潔な感じがせず、座布団や縁側の椅子もなんとなく薄汚れている。入り口脇にはユニットバスが備えられているのだが、ここも薄汚れていて照明の傘は割れたままだった。案内した仲居さんも、お茶を出したらさっさと下がって、TVやセイフティボックスの案内もろくにせず、そそくさと出て行った。お風呂の案内も言葉足らずだったので、あやうく露天風呂を見逃すところだった。

でもま、おいしい蟹を食べに来たんだし、蟹がおいしければいいか。

と思ったものの、これがまた小さくて、本来のワタリガニを知る母などは食事中ずっとぶーすか言っていた。おまけに食事を運んでくる仲居さんがまた寡黙で、ほとんど料理や食べ方の説明がない。お刺身の魚を尋ねても、「さあ、料理のことはちょっと・・・」と口ごもったりする。

おぇ!それでもプロかよ!!

と思わず怒鳴ってしまいたいところだったが、仲居さんたちは別に悪い人ではなさそうで、純朴な田舎の人という感じでそんな怒りも呑み込んでしまった。つまりこの人達が悪いのではなく、ちゃんと教育がなされていない、ということなのだ。田舎にある家族でやってるような小さな民宿なら、洗練されたサービスがなくても、気安く話したりできてそれで十分だと思うのだが、5階建てか6階建てかの大きな建物をおったてて旅館をやってるようなところが従業員にこんな教育をしていては、もう絶対ダメだ。田舎なら田舎らしい、無骨なサービスもあっていいと思うが、私達とろくにコミュニケーションもとらず、ただ事務的に作業をするだけでは客が気持ちよいはずはない。

接客業って、つくづく心が大切だなと感じた。
部屋も汚い、料理もイマイチ、でも私達は従業員の接客態度に一番がっかりさせられたような気がするからだ。料理や部屋だけでなく、やっぱり人は旅館に来ると何かしらふれあいを求めているのだ。部屋も料理も旅館という体制の問題だが、客と直接接する従業員の人達が愛想もくそもなければ気持ちの持って行きようがなく、尚一層不快スパイラルに陥る。田舎の温泉旅館がそう儲かることはないだろうから、部屋をきれいにしたり、立派な料理を出すことは難しいのかもしれない。しかしそこんとこを唯一カバーできるのが「もてなしの心」というサービスではないだろうか・・・。

食事を下げた後、おふとんをひきに仲居さんがやってきたが、私達はまだ8時かそこらで宴が終了するはずもなく、自分達でふとんをひくことにして断った。その後飲んだくれ一家は相変わらずそのペースを崩さず、お酒を飲みながらあーだこーだ言って、見知らぬ田舎町で一夜を過ごした。
そして明くる朝には朝食会場で朝ごはんを食べた。昨日の仲居さんがお給仕をしており、私達が席につくと、温かいごはんとおみそ汁を運んできてくれた。配り終えると仲居さんは恥ずかしそうに小さくつぶやいた。

「昨日はおふとんをひいていただいて、ありがとうございました」

自分達の仕事を客に任せたようで、気兼ねしたのかもしれないが、そんなことは私達が選んでやったことなのでちっとも気にする必要はないのだ。それより、なにより、ちゃんとお風呂の案内をし、料理の説明をし、「お疲れでしたね」の言葉のひとつもかける方がずっと大事なのですよ、と言いたかったが、私達は「いえいえ」と微笑みながら黙って朝食を食べた。それぞれの胸の裡ではもう二度と来ないだろうと呟きながら・・・。

こうやってお客は失われていくのであーる。
もてなしの心を失った旅館ほど、無意味な施設はない。だったらビジネスホテルの方がよっぽど居心地が良い。殊に温泉や海外旅行など、今の人達はいろんな所に出かけてサービスやもてなしを受け慣れている。田舎だからこれで良しとされるほど、無知ではないのだ。売り上げが上がらないと嘆く前に、経営者はもっとお客さんの気持ちになって努力する必要がある気がする・・・。

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